HAPPY END LETTERS 
  〜抜粋ぷれびゅ〜




 早朝の生徒会室。
 既に日課となった感もある学校の備品整備を終えてからいつものように一成に茶を振る舞われた。
 まだ大分時間が早いためか校舎内は静まりかえっていて、生徒会室の中で一成と二人してお茶を啜る音がやけに大きく聞こえる。
 ……なんていうか、平和だなぁとしみじみ思いながら手に持った湯飲みを傾ける。
 そうして特に会話らしい会話もなく朝特有の静寂を楽しみながらまったりと一服してる最中、思いも掛けない人物がやって来た。
「……間桐?」
 戸を開けた人影を見て一成は間の抜けた声を上げ、俺は湯飲みを口許に持っていったまま首を傾げる。そしてノックもなしに入ってきた慎二は、挨拶もないまま無造作に、

「おい衛宮。お前、遠坂と付き合ってるのか?」

 トンデモナイ爆弾を、放り投げてくれやがった。
「―――ンぐっ」
 危うく――口に含んだお茶を盛大に噴き出すところだった。
 なんとか飲み下したはいいけどヘンに気管にでも入ったのか静けさを破って激しく咳き込む俺と、言葉も出せず硬直する一成。
「い、いきなりっ、なにをっ…!」
 頭の中は真っ白で、咽せながらも何とかそれだけ口に出すと慎二は大袈裟に肩を竦めてみせた。
「いいから答えろよ。簡単だろ? 遠坂と付き合ってるのかどうか」
「えっ、衛宮! お主まさかあの女狐と…っ!?」
 悲鳴にも似た詰問を一成にぶつけられてようやく、思考硬直が解けた。
 まずいっ。
 何がまずいって一成にとって遠坂は天敵だ。そりゃもうコブラとマングースばりの。そんな一成にさっきの慎二の言葉は会心のというよりは痛恨の一撃過ぎる……!
「ち、ちょっとこっち来い慎二!」
 これ以上クリティカルなことを言われる前に有無を言わせず慎二の襟首をひっつかんで走り出す。
「なっ、なんだよ…っ」
 じたばたと暴れる慎二を引きずりとにかく人の気配がない場所へ。ああもう今が早朝で本当によかった…! 
「おい衛宮っ、離せって…!」となおももがく慎二。
 ――ええい、文句は後で聞く!




      ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇




「――む」
 覗き込んだ靴箱に本来ならあるべきでないものを見つけ一瞬動きを止めたものの、そのまま何事もないかのようにそれを手に取れたのは―――ある意味でそれが見慣れたものでもあったからだ。
 それに、まあ。見つけてしまった以上はなかったことにすることも出来ないし。
 とにかく、手の中にあるのはどこからどうみても恋文としか形容できない代物だった。特筆すべき点と言えば書かれて然るべき宛名と差出人の名前がないということか。
「ふぅん?」
 おもしろそうじゃない。
 まず間違いなくこの恋文としか思えない外形の手紙は『遠坂凛』と名前の書かれた靴箱に入っていた。つまり、靴箱を間違えるとかの初歩的な間違いでもないかぎりはやっぱりわたし宛。
 今時こんな古典的手法で、とも思うがそれが逆に興味を惹いたのも確か。
 それに宛名も差出人の名前すらもないこれって、ちょっとしたミステリーじゃない?
 好奇心に負け、周囲を見渡してこちらに意識を向ける生徒がいないことを確かめてから封を開けてみる。
 中に入っていたのは、見たところ変な魔術も掛けられてない本当にごく普通の便箋が一枚。そこにはやけに角張った文字で『昼休み 部室棟裏で待つ』とだけ記されていた。恐らく筆跡を誤魔化すために定規でも使ったに違いない。
 それは別にいい。……いいんだけど、困ったな。
 本当に、ただそれだけしか書かれていないのを確かめて途方に暮れてみる。流石にちょっと、文面がたったこれだけというのは予想外だった。
 差出人を示す情報が全くと言っていい程なく、在るべき筈の意図がさっぱり読めない。なんか文面だけ見たら決闘状とかそんな風に受け取れないこともないし? いや、流石にそれはないだろうとは思うんだけど――思いたいんだけど。
 ……さて、これはどうしたものかしらね。


 ――そう、思えば。
 この時、予感はしていたのだ。
 今日という一日がいつもと違うものになるような、そんな予感が。





抜粋ぷれびゅ終わり。


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