「あっつーい」


後ろから聞こえた声に振り向こうとして、振り向きかけたその格好のまま衛宮士郎は硬直した。いやもう音が聞こえそうなくらいの勢いで。
彼の視点の先には、その、一応というかなんというか世間一般で言われるところの「恋人」である遠坂凛の姿。
それだけならいいのだ。
士郎と彼女が付き合うきっかけとなった聖杯戦争から半ば衛宮家の居候となった凛がこの家にいることは、決して珍しいことではない。
そう。珍しいことではないのだ―――――それなのに士郎が硬直した理由とは。


「ねー士郎、何か冷たいものない?」


遠坂凛の、その服装にあった。
「ととととと遠坂っ!?」
上ずり、狼狽しまくった声をあげる士郎。顔はもうこれ以上ないくらい真っ赤だ。今頭の上にやかんを置いたら間髪入れずに沸騰するに違いない。
ラフなハーフパンツにタンクトップという格好。さらにいつもはツインテールにしている艶やかな黒髪は一つにまとめてあげられている。
こう、ちらっと見えそうで見えないチラリズムがこれでもかというほど満載。(敢えて何処か言わないが)

その威力たるやまさに核ミサイルのごとし。

士郎の頭の中はもー直下型の大型地震でも来たかのように揺れている。
「おっ、おっお前なんて格好で・・・っ!」
それでもなんとか声を絞り出す士郎に凛はきょとんと首を傾げてみせる。
「だって暑いんだもの。士郎しかいないんだし、別に構わないでしょ?」
「――――――っ!!!」
さらに無邪気に爆弾を放り込まれ、士郎は口を空しく開閉させた。頭の中がショートしたらしく言語中枢が追いついていってくれない。
とにかく目の毒過ぎる凛の姿から理性を総動員して視線を引きはがし、士郎は台所を指さした。たったそれだけのことに持てる力全てを費やしたように感じるのは―――多分、気のせいなんかじゃない。
「・・・冷蔵庫の中に昨日買ってきたアイスが入ってるから食べていいぞ」
「え、いいの?」
「おう」
「ありがと、士郎」
にこりと。
あかいあくまはウィンク一つ残して軽やかに士郎の横をすり抜けてゆく。
その姿が台所に消えたのを確認してから、士郎はその場にがっくりとへたり込んだ。


「・・・勘弁してくれ」


これから梅雨、そして夏となる季節にあったある日の一コマ。
衛宮士郎の悩みの種は尽きない。






続く・・・?



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